新盆に用意する盆棚には、精霊馬やお供え物、提灯、蓮華など、さまざまなものを飾ります。
古くから伝わる盆棚には、精霊馬や供物などを並べるだけでなく、竹や垣根を組み、縄を渡し、そこに色紙などを下げて飾る形も見られます。
今回は、竹・垣根・真菰縄・吊るす飾りが盆棚の中でどのような役割を担っているのかをご紹介します。
竹と垣根の役割
市原市の盆棚では、棚の左右や四隅に竹を立てます。棚だけを置いた状態では、日常の延長にも見えますが、竹が立つことで、その内側と外側とが区別して意識されるようになります。
つまり竹には、盆棚の周囲に輪郭を与える役割があると考えられます。
ではなぜ盆棚には竹が使われてきたのでしょうか。その起源についての明確な答えはありません。
竹は暮らしの中で身近な素材であり、軽くて丈夫で、真っすぐなため扱いやすいという特徴があります。また、古くから神事や祭礼の場を整える際にも用いられてきました。
そもそもお盆は、仏教の世界観だけで成り立ったものではなく、日本古来の祖霊信仰など、さまざまな習俗が重なりながら現在の形になったと考えられています。
そのため、盆棚に竹が使われてきた背景にも、身近で扱いやすいという実用性だけでなく、竹が古くから特別な場を形づくるために用いられてきた文化とのつながりがあったのでしょう。
竹とともに使われるものに、盆棚の周囲を囲う垣根があります。壁のように完全に空間を閉ざすものではありません。
内側が見えながらも、ここから先が盆棚の空間であることを、ゆるやかに示します。「完全には閉ざさず、しかし区切りは示す」という形が特徴的です。
帰ってきた故人を遠ざけるためではなく、盆棚の内と外を分けるための境目です。
竹や垣根があることで、そこが日常の生活空間とは仕切られた場所、という違いが目に見えるようになります。
こうした垣根は、かつては家族や近所の人が手作りしたり、地域の商店で販売されたりしていましたが、現在では目にする機会も少なくなりました。
鯉徳では、この地域で受け継がれてきた盆棚の形を踏まえ、現在も垣根を模した意匠を取り入れた盆棚を中心にご用意しています。
真菰縄と吊るす飾り
竹と竹の間に、縄を張る形も多く見られます。この縄には、真菰(まこも)を材料にしてよった真菰縄や、それに似せてつくられた飾り縄などが用いられます。
真菰は、古くから敷物や編み物などに使われてきた植物で、お盆には盆棚の敷物や、精霊馬を置く敷物としても知られています。
真菰縄は、竹と竹の間をつなぎ、盆棚の上部や周囲に一本の線をつくります。竹や垣根によって示された境界をさらに結び、盆棚全体をひとつの空間としてまとめています。
竹と竹の間に渡した真菰縄には、色紙や紙飾りを下げることがあります。 竹や真菰縄に比べると、より装飾的な要素が強いものです。 盆棚は供養の場ですが、必ずしも暗く沈んだ色だけで整えるものではありません。
竹や垣根、真菰縄が空間の骨組みをつくるものだとすれば、色紙はその骨組みに華やかな表情を与えるものと考えられます。
また、市原市周辺では、真菰縄に色紙とほおずきを組み合わせて吊るす形が多く見られます。 ほおずきには、ふくらんだ実の姿を提灯に見立て、ご先祖さまを迎える灯りを表すという言い伝えがあります。
ご家庭によっては色紙やほおずきだけでなく、菩提寺からいただいた紙の飾りや幡などを縄から吊るすこともあります。
結界という考え方
竹を立て、垣根を巡らせ、さらに真菰縄を渡す。この囲われた空間について、「結界」として説明されることも少なくありません。
実際に、精霊棚の四隅に竹を立てて縄を張る形について、仏教寺院でも「結界を張る」「お迎えする場を清らかにする」と説明されています。
ここでいう結界は、故人やご先祖さまを遠ざけるためのものではありません。
むしろ、普段の生活空間の中に境目をつくり、「ここが特別な場所です」と示すための区切りと考えると分かりやすいでしょう。
竹が立ち、垣根が巡らされ、縄によってその境界がつながることで、いつもの部屋の一角に、供養のための特別な「場」ができあがります。
ただし、盆棚の形や結界についての考え方は、宗派や地域によって異なります。すべての盆棚が同じ意味を持つと断定することはできません。
それでも、竹や垣根、真菰縄がそれぞれ単独の飾りではなく、内と外を分け、供養のための場を整えるものとして組み合わされてきたと考えると、盆棚の姿も理解しやすくなります。
なぜ「場を整える」のか
ここまで見てきたように、竹・垣根・真菰縄・色紙などには、それぞれ異なる意味があります。
竹
盆棚の左右や四隅に立ち、空間の輪郭をつくる。
垣根
盆棚の内側と外側を分け、その境界を示す。
真菰縄
竹と竹をつなぎ、盆棚全体をひとつの空間としてまとめる。
色紙やほおずき
縄から吊るし、盆棚に彩りや意味を加える。
敷物を敷き、棚を設け、竹を立て、垣根を巡らせ、縄を渡す。その内側に精霊馬や供物を置き、花や蓮華を飾り、提灯に灯りをともす。
こうしたものを整えていくことで、普段の部屋の一角が、ご先祖さまを迎えるための「場」へと変わっていきます。
盆棚を一つひとつ組み上げていく様子は、どこか家をつくることにも似ています。竹を立てて輪郭をつくり、垣根で囲い、その内側にござを敷き、花や供物を飾る。何もなかった場所に、帰ってくる方のための居場所が生まれていくようです。
盆棚は、品物をただ並べているのではありません。普段の暮らしの中に、ご先祖さまをお迎えするための場所を設けているのです。
私たちも誰かを家へ迎えるときには、部屋を整え、座る場所を用意し、必要なものを準備します。お盆の設えにも、それと通じるところがあります。また、その根底にあるのは、
帰ってくる方のために、きちんと場所を整える
という、ごく自然な気持ちなのではないでしょうか。
地域や家庭に受け継がれてきた形
ここまでご紹介してきた竹・垣根・真菰縄・色紙は、長い年月をかけて受け継がれてきた盆棚の基本的な設えの一つです。
まずは、この地域で受け継がれてきた基本の形を知ること。そして、それぞれの飾りが担ってきた役割を理解すること。そうすることで、昔から続く盆棚の形にも理由があることに気づくはずです。
本来の意味や役割を知らないまま形だけを省いてしまうことと、その意味を理解したうえで現在の暮らしに合わせて工夫することは、決して同じではありません。
まとめ|受け継がれてきた形には、理由がある
昔から盆棚に用いられてきたものには、それぞれに意味があります。一つひとつをたどっていくと、なぜ盆棚がこのような形になってきたのかが見えてきます。
竹で輪郭をつくり、垣根で内と外を分け、縄でその空間をつなぎ、色紙やほおずきで飾る。 そこには、故人を手厚く供養しようと、迎える場を整えてきた先人たちの知恵と工夫があります。
新盆を迎えるとき、何を飾るかを考えるだけでなく、「なぜこれを飾るのだろう」と一度立ち止まってみる。そうすると、盆棚の見え方も少し変わってくるはずです。
その意味を知ることは、故人を想い、供養する気持ちをより深めることにもつながるのではないでしょうか。
❏ 地域の風習について
本記事は、千葉県市原市を中心に、袖ケ浦市・木更津市など近隣地域の風習をもとにご紹介しております。
お盆の飾り方やお供えの内容は、地域やご家庭によって異なる場合があります。
鯉徳では、それぞれの地域やご家庭に合わせたご案内をしておりますので、新盆の準備で迷われた際はお気軽にご相談ください。
お盆の飾りを、ひとつずつ読み解く
盆棚に飾るものには、それぞれ受け継がれてきた形があります。
なぜ飾るのか。その意味や背景を、ひとつずつご紹介します。