ひな人形|清水久遊
大人をも魅了する逸品。
女流雛人形作家 清水久遊
目を奪われる──。まさにこの出来事を体験したのは、わたしが仕入れを任され始めた20代後半の夏。有職雛工房ひいなの見本市に初めて訪れたときのことでした。
見たことのない生地やかさねの色彩。直線的でシャープなシルエット。そして、しっとりと手に吸い付くような絹の質感。それまで抱いていた雛人形のイメージを大きく変えられたことを、今でもよく覚えています。
あれから20年以上。数多くの雛人形を見るようになった今も、清水久遊は鯉徳の商品構成から外すことのできない作家のひとりです。
3つの特徴
清水久遊について詳しく見る
当時のわたしにとって、雛人形とは連綿と受け継がれてきた伝統技術の完成形──どこか懐古的で、サイズを除けば大きく変わることのないもの、というイメージがありました。
けれども、ひいなの人形が与える印象はそれとはまったく異なるもの。ひとことで言うならば、現代の空気感をただよわせる雛人形。伝統の中にありながら、色や素材、造形によって新しい景色を見せる。その存在が、人形を選ぶわたし自身の視点も変えていきました。
作家紹介
今や全国に多くのファンを持つ有職雛工房ひいなの雛人形。その制作現場の中心にいるのが清水久遊さんです。
18歳より先代のもとで人形作りを始め、昭和62年、さらなる高みを目指して有職雛工房「ひいな」を設立しました。
伝統的な人形作りの技術を土台にしながら、独自の色彩感覚や素材選びによって、時代に合わせた雛人形を作り続けています。
清水久遊の人形づくり
01 色彩|独創的なかさねの色
女雛の袖・襟元・裾にみられるかさね(五衣)にご注目ください。唐衣や表着とのバランスを見ながら、絶妙な間隔で衣装をずらして重ねることで、美しい色の層が生まれます。
鮮やかなグラデーションを見せるものもあれば、わずかな差し色が全体の印象を決めているものもあります。こうした色の組み合わせは、清水久遊の雛人形を見る楽しみのひとつです。
02 造形|色彩を生かす端正な姿
久遊の魅力としてまず色彩に目を奪われますが、長く見ていると、その色を生かしているボリュームを抑えた端正なシルエットにも目が向くようになります。
03 仕立て|見えない部分まで手をかける
この造形を支えているのが、表からは見えない裏打ちという作業です。衣装となる生地の裏に和紙を合わせることで、型くずれを防ぎながら、着せ付けに適した張りを持たせます。
ひいなの裏打ちは、生地と和紙の縁を糊付けして貼り合わせる袋貼りという方法で行われます。生地と和紙の間に適度な遊びが生まれることで、衣装を胴体に沿わせながら着せ付けることができます。
また、裏打ちに使う和紙には、しなやかさと耐久性を持つ楮(こうぞ)を使用。完成すると見えなくなる部分の仕事が、清水久遊らしいすっきりとした姿を支えています。
雛人形に込められた願い
女雛の背部、引腰に巻かれているのは蒲郡八百富神社のお守札。祭神は市杵島姫命(いちきしまひめのみこと)という女性の神様です。創業者の清水八郎氏が縁を感じ、雛人形のお守りとして使いたいとお願いしたことが始まりとされています。
現代の暮らしに馴染む美しさを持ちながら、雛人形が子どもの健やかな成長を願って飾られてきた節句の人形であることも忘れない。鯉徳が久遊を商品構成から外せない理由は、こうした部分にもあります。
鯉徳から見る、清水久遊
初めてひいなの人形を見た頃から、色や素材、雛人形を取り巻く暮らしも大きく変わりました。清水久遊の人形も、その時代の空気を取り入れながら変化を続けています。
一方で、長く見続けているからこそ、変わっていないものにも気づきます。色彩を生かす端正な造形、完成すると見えなくなる部分まで手をかける仕立て、そして雛人形としての意味を大切にすること。
新しさだけを追うのではなく、残すものがあるからこそ変わることができる。20代の頃とは見るところもずいぶん変わりましたが、それでも清水久遊が今も鯉徳の商品構成から外せない理由は、そんなところにあるのだと思います。