五月人形|多ヶ谷一光
古典の造形を、一途に磨き続ける。
甲冑師 多ヶ谷一光
平安から鎌倉時代の大鎧を手本に、古典的な甲冑の美しさを追求してきた多ヶ谷一光。流行に合わせて種類を増やすのではなく、限られた造形に向き合い、その完成度を高めてきた甲冑師です。
その原点にあるのは、初代・多ヶ谷昇氏が心を奪われた甲冑師、早乙女義隆の作品。古典的な甲冑の美しさを、少しでも多くの家庭に届けたいという思いから、自ら制作の道を志しました。
鯉徳では、その造形と丁寧な仕立てを大切にしています。現在扱う作品はすべて鯉徳のオリジナル配色。古典的な形を生かしながら、色による新しい表情を提案しています。
3つの特徴
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作家紹介
初代・多ヶ谷昇氏は昭和30年、埼玉県生まれ。人形店を営む傍ら、甲冑師・早乙女義隆の作品に強く惹かれ、自ら甲冑づくりを志しました。
早乙女義隆は、武具研究家・笹間良彦氏に甲冑を学び、主に平安から鎌倉時代の大鎧を、当時の素材や製法に近づけながら制作した稀代の甲冑師です。
細部までつくり込まれた作品は専門家からも評価される一方、制作数が限られ、一般的な五月人形と比べてはるかに高価なものでした。
その美しさを少しでも多くの家庭に届けたいと考えた多ヶ谷氏は、甲冑師・米持一美氏や初代大野龍玉氏の手ほどきを受け、江戸甲冑の制作を始めます。
早乙女作品と同じく平安から鎌倉時代の大鎧を手本としながら、独自の工夫によって、手間をかけた甲冑をできるだけ手の届く価格で届けることを目指しました。
その仕事から生まれた作号が「多ヶ谷一光」。初代が培った技術と考え方は後進へと受け継がれ、現在も古典的な造形を大切にした甲冑づくりが続いています。
01 造形|古典の形を守る
五月人形の鎧や兜には、さまざまな時代の甲冑を題材としたものがあります。多ヶ谷一光が手本としてきたのは、平安から鎌倉時代にかけての大鎧です。
大きく伸びる鍬形や、背面から見た兜の輪郭にも、その時代の甲冑を意識した造形が表れています。正面の華やかさだけでなく、横や後ろから見た姿にも目を向けたい甲冑です。
多ヶ谷一光では、制作する甲冑の形を絞り込み、こうした古典的な造形を受け継いできました。
▲ 兜の印象を左右する正面の鍬形。古典的な長鍬形を主に採用しています。
▲ 背面から見た兜の形状。鎌倉期の甲冑に見られる、首を守るための形を手本としています。(鯉徳取扱商品すべてに採用)
02 細工|金属に表情を与える
鎧や兜は、多くの金属部品を組み合わせてつくられています。多ヶ谷一光は、その部品をただ組み上げるのではなく、仕上げの工程にも手をかけています。
例えば、鍬形を支える鍬形台に施す手彫りの模様。兜の鉢に並ぶ鋲「星」の手磨き。ひとつひとつは小さな仕事ですが、金属の質感や作品全体の印象を左右する部分です。
▲ 鍬形台の深彫り。鍬形を支える金具に、手彫りで模様を施しています。(一部商品に採用)
▲ 兜の鉢に並ぶ鋲「星」。一つずつ手で磨き、金属に色味の奥行きと落ち着いた重厚感を持たせています。(鯉徳取扱商品すべてに採用)
素材の選び方にも、古典甲冑へのこだわりが見られます。兜の両脇にある吹返しには、鹿革に漆で模様を施す甲州印伝を使用。金属とは異なる質感が、甲冑に豊かな表情を加えています。
▲ 吹返しに用いられた甲州印伝。鹿革に漆で模様を施す伝統的な革工芸です。(鯉徳取扱商品すべてに採用)
03 思想|美しい甲冑を、より多くの家庭へ
初代・多ヶ谷昇氏が目指したのは、早乙女義隆の作品に感じた美しさを、一般の家庭でも手に取れる甲冑として届けることでした。
そこで工房が選んだのが、制作する形を絞り込むという方法です。新しい形の開発には、試作や調整のための時間と費用がかかります。その負担を抑え、限られた造形を繰り返し制作することで、細部の仕立てに力を注いできました。
手間をかけるべきところには手をかけ、抑えられる負担は抑える。美しさと価格の両立を図る、その考え方こそが、多ヶ谷一光のものづくりの哲学です。
鯉徳から見る、多ヶ谷一光
時代に合わせて新しい商品を開発し、甲冑の表現を広げていく。そうした工房の創造力や技術には、私たちも大きな魅力を感じています。
その一方で、多ヶ谷一光のように、長年変わらない仕事を続けている工房の存在も、同じくらい大切だと考えています。
新しいものを生み出すことだけが、伝統を未来へつなぐ方法ではありません。同じ形をつくり続けることで守られる技術や美意識もある。そのことを、多ヶ谷一光の甲冑は教えてくれます。
鯉徳で扱う多ヶ谷一光の甲冑は、すべてオリジナル配色です。工房が守り続けてきた造形には手を加えず、色の組み合わせによって新しい表情を持たせています。
変わらない形と、変わる色。そのバランスを大切にしながら、今の暮らしにも自然に馴染む鎧や兜を提案していきたいと考えています。