五月人形|加藤鞆美(江戸甲冑)
古典甲冑の技を、今に受け継ぐ。
甲冑工匠 加藤鞆美
国宝や重要文化財として現存する甲冑を調べ、その造形と制作技法を学ぶ。加藤鞆美は、古典甲冑の研究をもとに、伝統的な江戸甲冑づくりを受け継いできた工房です。
なかでも注目したいのが、兜の背面を構成する「𩊱(しころ)」のつくり。完成した姿からは見えにくい部分にも、古典甲冑にならった技術と多くの手仕事が残っています。
鯉徳が考える「江戸甲冑」とは
鯉徳では、東京や関東近郊で制作されたというだけで、すべての鎧や兜を「江戸甲冑」とは呼んでいません。下記に紹介する伝統的な𩊱づくりの技法を用いたものに限定し、江戸甲冑と定義して扱っています。
3つの特徴
加藤鞆美について詳しく見る
作家紹介
1934年東京生まれ。父は江戸甲冑の名工として知られる初代加藤一胄。12歳頃から父のもとで甲冑制作の技法を学びました。
父が残した甲冑の資料を整理するとともに、その内容を確かめるため、自らも全国の国宝甲冑などを実地に調査。古典甲冑の研究を重ねながら、制作に取り組んできました。
その技術と研究姿勢は、二代目・加藤美次氏、三代目・加藤拓実氏へと受け継がれています。
初代・加藤鞆美の主な受章歴・認定
- 瑞宝単光章受章(2021年)
- 日本伝統工芸甲冑士一号
- 経済産業大臣指定伝統工芸士
- 東京都知事指定伝統工芸士
01 考証|実物から学ぶ
古典甲冑の研究は、加藤鞆美の造形にも表れています。
鯉徳で扱う作品にも、国宝甲冑を手本としたものがあります。日御碕神社に伝わる白糸威鎧や、厳島神社に伝わる浅葱綾威鎧など、実在する甲冑の造形や色彩が制作の手がかりとなっています。
兜の鉢や𩊱の形、威糸の配色など、古典甲冑の特徴を節句用の大きさに落とし込む。実物の姿と構造を理解しているからこそ生まれる、均整の取れた造形です。
02 𩊱づくり|江戸甲冑の真髄
𩊱(しころ)とは、兜の背面から首まわりを覆う部分です(下記画像の赤色の部分)。一般的な節句用兜では、成形された金属製の小札板が使われることが多いのですが、伝統的な江戸甲冑では、実物の甲冑にならい、和紙や革を用いた小札板をつくります。
その違いは、完成した兜の姿だけでは分かりにくいものです。ここでは、最も注目していただきたい𩊱づくりの工程をご紹介します。
江戸甲冑の手仕事を知る
𩊱ができるまで
小札づくり → 手並べ → 塗り → 乾燥 → 威 → 完成
▲ 1. 小札(こざね)づくり
和紙や革を重ねて厚みを持たせ、短冊状に裁断して小札をつくります。威糸を通すための穴も必要になりますが、穴をあけるタイミングは職人によって異なります。
▲ 2. 手並べ小札
小札を一枚ずつ並べ、𩊱の形に合わせて小札板をつくります。必要な枚数や曲線の角度は作品によって異なり、正確に並べなければ、組み立てたときにずれが生じてしまいます。
▲ 3. 漆工(漆塗)
並べた小札を糊で固め、小札板に仕立てます。その後、胡粉による下塗りや漆などによる塗装を施し、表面を整えていきます。
▲ 4. 乾燥
塗りを施した小札板を時間をかけて乾燥させます。板に並ぶ穴は、後の工程で威糸を通すためのもの。こうして、𩊱を構成する大小の小札板が整えられます。
▲ 5. 威(おどし)
完成した小札板を威糸でつなぎ合わせていきます。異なる大きさの板を組み合わせ、糸を通すことで、𩊱の形ができあがります。
▲ 6. 完成
小札板と威糸が組み合わさり、𩊱が完成します。威糸の色や配列によって印象が変わり、作り手の美意識が表れる部分でもあります。
小札をつくり、並べ、塗り、威す。一つひとつの工程を根気強く積み重ね、ようやく𩊱は完成します。外見を似せるだけでは得られない、手仕事の確かさがここにあります。
03 継承|守る技術、広がる表現
初代加藤一胄から加藤鞆美へ、そして次の世代へ。古典甲冑の研究と伝統的な制作技法は、代を重ねながら受け継がれてきました。
その技術を受け継ぐ三代目・加藤拓実氏は、「加藤秋実」の名で独自の作品づくりにも取り組んでいます。
黒鉄を用いた兜や、従来の鞆美作品には見られなかった色彩の組み合わせ。落ち着いた黒を基調に、紺や淡い色の威糸を取り入れるなど、素材の質感や配色に新しい感性が表れています。
一方で、甲冑の構造や制作技法は従来の仕事を踏襲しています。和紙や革の小札を重ね、塗りを施し、威糸でつなぐ。これまで培われてきた技術を土台に、意匠の可能性を広げています。
受け継ぐべき技術を守りながら、時代に応じた新しい表現を模索する。加藤秋実の作品には、江戸甲冑の伝統と、これからの可能性が感じられます。
鯉徳から見る、加藤鞆美
古典甲冑の製法に基づき、気の遠くなるような手仕事を積み重ねる加藤鞆美。完成した姿の美しさだけでなく、その裏側にある技術と手間も、鯉徳がこの甲冑を選ぶ理由のひとつです。
節句人形の姿や流行が時代とともに変わるなか、古典の造形と伝統的な製法を守り、江戸甲冑としての品位を保ち続けていること。長い年月をかけて培われた技術には、流行では測れない価値があります。
鯉徳が提案する飾り方も、その姿勢に沿ったものです。過度な装飾を避け、兜の造形や色彩を生かす台と屏風を選ぶ。周囲にほどよい余白を持たせることで、甲冑そのものの美しさを静かに引き立てたいと考えています。