コレクション:
美しい自然が生みだす北陸の伝統
越中八尾和紙
雄大な立山連峰を眼前に臨み、豊かな自然と良質な水源に囲まれた北陸地方 富山県。恵まれた自然環境を背景にこの地で生まれた手漉き和紙は"越中和紙"と呼ばれ、国の伝統的工芸品にも指定されています。
越中和紙はその地域により"箇山和紙(ごかやまわし)""八尾和紙(やつおわし)""蛭谷和紙 (びるだんわし)"の3種に分類され、各産地ごとに少しずつ用途が異なっており、さまざまな種類の和紙があるのが特徴です。なかでも加工用手漉き和紙を製造してきた県南部の八尾町(八尾和紙)は、江戸時代に富山から全国に出向いた名物"富山の薬売り"とともに発展。その丈夫さから薬包紙や帳簿、薬売りが持ち歩くカバンに至るまで幅広く使われ、当時はほとんどの家庭で紙漉きが行われていたといいます。
JR富山駅前にある薬売りの銅像
手漉き和紙界の重鎮、桂樹舎
昭和35年、吉田桂介氏により創業した桂樹舎は、現在八尾町に残る唯一の手漉き和紙工房。機械生産の発達により手漉き和紙業界が衰退していくなか、同工房は独自の技法と哲学をもって当時の伝統を今に引き継ぐ越中八尾和紙の生き字引ともいえる存在です。
同工房最大の功績は、布製品のように"型染め"で和紙を染める技術を習得するともに、耐久性のみならず防水性も高い"水に溶けない和紙"を開発したことにあります。また民藝運動に大きく感銘を受けた吉田氏は、その運動の中心的存在である柳宗悦や芹澤銈介といった偉人らとも積極的に交流し、手仕事に対する考え方はもちろん絵柄のデザインにも磨きをかけ、その存在を比類なきものにしていきました。
全行程が手仕事
和紙を漉く工程も型染めの工程もそのすべてが手作業によるもの。素朴ながらに趣深いたたずまいは、温かい手仕事の成せる技ともいえましょう。
1.紙漉き。漉桁で紙料を汲み上げては前後左右に揺すり、必要とする厚さになるまでその動きを繰り返す。
2.乾燥。漉いた和紙を一枚一枚鉄板に張り付けてしっかり乾燥させる。
3.型彫り。柿渋染めをした紙(渋紙)に型を彫っていく精緻な作業。
4.糊置き。先ほど乾燥させた和紙の上に型彫りした渋紙を乗せ、着色させない部分に素早くヘラで防染糊を塗る作業。
5.地染め。防染糊を塗った和紙全体に顔料や植物染料を使い、防染していない部分を染めていく作業。
6.水元。染め終えて乾燥させた和紙を数時間水に浸け込んでから防染糊を洗い流す作業。その後再び乾燥させて完成。
普段使いで経年変化を楽しむ。
手漉き→型染め→製品加工までを一貫して行う工房は、全国の和紙工房でも桂樹舎ただ一軒のみ。中まで染料が染み込み、折り目も白くならない型染和紙は加工するにふさわしく、箱や名刺入れなどデザイン性の高いさまざまな和紙小物が次々誕生しています。使い込んでいく程に柔らかく手に馴染み艶を増す手漉き型染め和紙。手仕事のあたたかさとあなただけの経年変化をどうぞお楽しみ下さい。