お盆の飾りと聞いて、多くの方が思い浮かべるのが提灯(ちょうちん)です。 やさしく灯る明かりは、お盆ならではの風景として親しまれてきました。
今回は、提灯の種類や選び方ではなく、お盆に灯りをともす意味と、ご先祖さまをお迎えする場の中で提灯が果たしてきた役割について考えてみます。
お盆と灯り
お盆では昔から、火や灯りを用いて故人やご先祖さまを迎えてきました。
盆の入りには家の戸外で迎え火を焚き、盆の終わりには送り火を焚く。火を目印として故人を迎え、再び送り出すという考え方は、各地のお盆の習わしに見ることができます。
お盆の灯りは家庭内だけではありません。地域によっては、迎え火や送り火のほか、京都の「五山送り火」のように山に火を灯して故人を送る行事や、川や海へ灯籠を流して見送る「灯籠流し」なども受け継がれています。
▲ 京都・五山送り火
▲ 灯籠流し
故人を導く盆提灯
盆提灯にも、迎え火や送り火と同じように、灯りによって故人やご先祖さまの行き来を導く役割があるといわれてきました。もっともよく知られているのが、
「迷わずわが家へ帰ってこられるように」
という「道しるべの灯り」としての意味です。 そのため、家の入口や軒先などに提灯を掲げ、帰る場所を灯りで示します。 また、墓地へ提灯を持参し、迎え火を移して家まで戻る習わしも、ここ市原市には残っています。
そこにあるのは、ただ道を明るくするという実用的な目的だけではありません。 「ここが帰る家ですよ」と灯りを掲げ、故人を迎えようとする家族の気持ちが、盆提灯という形に表れているとも考えられます。
なぜ室内にも提灯を飾るの?
故人の帰り道を示すための灯りであれば、提灯は家の外や玄関先だけにあればよいようにも思えます。それでも多くの地域ではお盆になると、室内に提灯を飾ります。
新盆に設ける盆棚は、故人をお迎えし、お盆の間をともに過ごすために整える場所です。そのそばにも提灯を置き、灯りをともします。
外に掲げる提灯が、帰る家を知らせる灯りだとすれば、室内の提灯は、お迎えした故人のためにともす灯りと考えられます。
私たちも誰かを家へ迎えるとき、暗いままの部屋へ通すことはありません。部屋を整え、灯りをつけて迎えます。 盆提灯は、故人のためにともす灯りであるとともに、
「今年もお迎えする場所が整いましたよ」
という、迎え入れる家族の気持ちを形にしたものとも考えられるのではないでしょうか。
提灯に描かれた草花や家紋
盆棚の脇に飾る提灯には、さまざまな草花や風景が描かれています。
桔梗、菊、萩、撫子など、秋の草花を思わせる絵柄も多く見られます。灯りをともすと、描かれた草花が紙を通した明かりの中に柔らかく浮かび上がります。
提灯の絵柄には、必ずしも一つ一つに決められた意味があるわけではありません。
それでも、道や場所を明るくするだけであれば、提灯を草花で美しく飾る必要はなかったはずです。そこに絵柄を施してきたことには、故人を迎える場所へ彩りを添えようとする気持ちが表れているように思えます。
また、草花だけでなく、家紋を入れて仕立てた提灯もあります。
家紋入りの提灯は、ご先祖さまや故人をお迎えする家のしるしとして受け継がれてきました。灯りだけでなく家紋を掲げることで、「ここが帰る家ですよ」という目印を、より明確に表そうとする意味もあったのかもしれません。
▲ 草花の絵柄が描かれた盆提灯
▲ 家紋入りの盆提灯
盆提灯は、道を示す灯りであると同時に、お迎えの場を美しく整える飾りでもあるのです。
提灯は一対で飾るもの?
盆提灯は、盆棚の左右に一つずつ、一対で飾る形が広く見受けられます。 左右に灯りを置くことで盆棚全体の釣り合いが整い、故人を迎える場所として、落ち着きのある姿になります。
一方で、現在は盆棚の大きさや部屋の広さ、家具の配置など、それぞれのご家庭に異なる事情があります。そのため、必ずしも大きな提灯を一対飾らなければお盆を迎えられないということではありません。
小型の提灯を選ぶ、一つだけ飾る、ほかの飾りとの釣り合いを見ながら大きさを調整するなど、現代の住まいに合わせた方法もあります。
ただし、単に「置けないから省く」と考える前に、提灯が何を表してきたものなのかを知っておくことは大切です。
灯りをともして迎えるという意味を知ったうえで、そのご家庭にふさわしい形を選ぶ。それが、習わしを現在の暮らしへつないでいくことになるのだと思います。
盆提灯には、盆棚のそばに置くものだけでなく、家の外や入口に掲げるもの、墓地への送り迎えに用いるもの、新盆に限って飾るものなどがあります。市原市周辺に受け継がれてきたそれぞれの提灯については、今後あらためてご紹介します。
灯りをともして迎える
ゴザを敷き、棚を設け、位牌や供物を置き、花やさまざまな飾りを添える。提灯も盆棚のそばへ置く。その一つ一つの行為を通して、家族もまた、故人を迎える心の準備をしていきます。
すべてが整い提灯に灯りが入ることで、盆棚はただ飾りを並べた場所ではなく、故人をお迎えするための場所へと変わっていきます。
実際に、提灯に灯りをともすとき、
「おかえりなさい、という気持ちに切り替わりますね」
とお話しくださるお客さまもいらっしゃいます。
盆提灯は、故人が帰る家を示す目印であり、お迎えした故人のためにともす灯りですが、 迎える家族にとっては、故人へ心を向ける時間でもあります。
盆提灯は、迎える家族の気持ちを整える灯りでもあるのでしょう。
❏ 地域の風習について
本記事は、千葉県市原市を中心に、袖ケ浦市・木更津市など近隣地域の風習をもとにご紹介しております。
お盆の飾り方やお供えの内容は、地域やご家庭によって異なる場合があります。
鯉徳では、それぞれの地域やご家庭に合わせたご案内をしておりますので、新盆の準備で迷われた際はお気軽にご相談ください。
お盆の飾りを、ひとつずつ読み解く
盆棚に飾るものには、それぞれ受け継がれてきた形があります。
なぜ飾るのか。その意味や背景を、ひとつずつご紹介します。