市原市の新盆飾りと盆棚づくり。
30年の変化から見えてきたこと
今年もお盆の季節がやってきました。
鯉徳では毎年、市原市近隣の新盆を迎えるご家庭に、
さまざまな盆棚をご用意しています。
設置までをご依頼いただいたお客さまへは、
ご要望をお伺いしながら、新盆の飾り付けを行います。
同じ市原市内でも、飾り方は一様ではありません。
地域によっても違う。宗派によっても違う。
物理的には部屋のつくりや広さも違う。
そしてその家だけに伝わる飾り方があったりもする…。
民俗学研究の権威ではないので(笑)、
そのあり方を学術調査するつもりはありません。
…とはいえ、30年もの間、同じことをしていると、
嫌でもいろいろ見えてくることがあります。
以前は単品販売中心
30年くらい前、鯉徳の夏場の商売は
提灯や造花などを単品で販売することが中心でした。
・家族に盆棚づくりを知っている人がいる。
・親戚や近所に作り方を知る人がいる。
・竹やお供え物を用意できる人がいる。
・聞きつけて、準備を手伝ってくれる人がいる。
新盆の準備が、家族だけで完結するものではなく、
親族や地域の人たちも関わる習わしだったため、
店側が一式誂え、設営まで行う姿ではなかったからです。
少なくとも当時の売り場では、盆棚そのものは
購入するものではなく、中心は提灯のみ。
鯉徳は、飾りの不足分を売るにすぎない存在でした。
単品から一式へ
平成の半ば頃でしょうか、都心から離れた市原市でも
家族の形は変わっていきました。
核家族化が進み、共働きも増え、地域との関わり方も
以前ほどの密度ではなくなりました。
・親は知っていたけれど、自分は知らない。
・昔は誰かがやっていたけれど、頼める人がいない。
・どこに何を飾ればいいのかわからない。
・そもそも何を揃えればいいのかわからない…。
そんななか、先代社長である父は、
市内で古くから飾られてきた盆棚の形式をもとに、
最低限必要なものを、一式揃えて提案。
ご自宅まで届け、飾り付けまで行うようになりました。
「地域文化を守ろう」と始めたわけでもありません。
お客さまが必要としている、わからなくて困っている。
それでは仕事として、それに応えよう。
そのはじまりはとてもシンプルなものでした。
鯉徳からお客さまへ、お客さまから鯉徳へ
ご自宅におじゃまして、置く場所を見る。
どうしたらきれいに見えるかを考えながら、
私たちが提案する新盆飾りを組み立てていきます。
途中休憩を挟みながら、お客さまとお話をすると、
「前までは亡くなった主人が飾ってたのよ」
「手伝いにきた人たちの接待の方が大変だったよ」
「提灯を飾りすぎてヒューズが飛んじゃってさぁ」
仏事にまつわる話ではあるのですが、
お話されている方々は、どこか懐かしそうに、
微笑みを浮かべながら話してくださいます。
そんな時間を長く続けていると、
・この地域では、この飾りが必須なんだな。
・この地域では、このお供え物を使うんだよな。
・このお宅は、たしか以前もこうしていたな。
そうした情報も少しずつ蓄積されていきます。
飾り付けに伺うなかで得られた
地域に残るしつらえや習わしは、
店頭でのご案内にも、活かされているように思います。
不思議な変化
以前は提灯や造花を単品で売っていた。
その後、私たちは必要なものを一式にし、
ご自宅まで届け、飾り付けまで行うようになった。
お客さまが必要としているから、やる。
何かを守ろうとして始めたわけではありません。
けれど商売として必要に応えてきた結果、気づけば
かつて家族や親族、地域が担っていた儀礼の一部を、
私たちなりに引き受けるようになっていた。
以前は身近な人たちの間で受け継がれていた盆棚づくり。
そのあり方が変わることに少し寂しさを感じつつも、
ご家族の節目となる記憶の一部を、
私たちが少しは担えているのだとしたら…
今はちょっとだけ、この業務を誇らしく感じています。
ちなみに若い頃の私が感じていたのは、
暑い…重い…急がねば…。
飾り終えて、ふと思う
棚をもうけ、ござを敷き、竹を立て、縄を巡らせる。
花を飾り、灯りをともし、食べ物を供える。
この一連のしつらえが完成すると、
「帰ってくるきれいなお家ができたね。」
と、お客さまは口々に語ります。
ただ、そんな言葉を聞くたび、
ときどき思うことがあります。
「この家…数日限りなんだよなぁ…」
提灯など、翌年以降も使うものはあります。
しかし盆棚そのものや周辺の品には、
迎える日から送る日までのために
用意されるものが少なくありません。
そしてお盆が終われば、役目を終えて片付けられます。
私たちは、どうして飾ることに
これほど手をかけるのだろう…?
長くこの仕事に携わってきているのに、
今さら、ふと湧き上がってきたそんな疑問。
次回は「飾る」という行為について
もう少し深く考えてみようと思います。
「飾るということ。」全4話
お盆の飾りから始まった、ひとつの問い。
私たちは、なぜ「飾る」ことに手をかけてきたのでしょうか。
第1話 (現在の記事)
市原市の新盆飾りと、盆棚づくり