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望月龍翠イメージ

業界屈指の技巧派職人。
伝統工芸士 望月龍翠

豊かな自然とともに歴史遺産も数多く残る静岡市駿河区。国指定特別史跡の登呂遺跡からほど近い閑静な住宅地に、人形師 望月龍翠さんの工房はあります。

1964年静岡生まれ。本名"望月竜介"。人形師の道を志し、18歳から埼玉県の老舗人形工房にてひな人形作りの基礎を習得。その後、人形師である父 幸彦氏のもと、地元静岡で本格的に人形製作を開始しました。国指定伝統的工芸品"駿河雛人形"の制作者として活躍し、平成15年に39歳の若さで、経済産業大臣指定伝統工芸士に認定された実力派です。

望月さんが使用する衣装生地は、平安貴族が愛した伝統的な"有職文様(ゆうそくもんよう)"が中心。今までも、そしてこれからもひな人形の永久定番ともいえるこの衣装をたしかな技で丁寧に着せ付けています。

望月龍翠イメージ

望月龍翠の特徴とこだわり。

力強くしなやか。型くずれしないボディライン。

伝統工芸品は製法も造形も昔から何も変わらないように思われがちですが、実のところ腕の良い職人ほど時代を読み取りながら細部に変化を加えたりもしています。たとえば80年代。ファッション同様、ひな人形も派手な衣装を用いて、そのシルエットも肩が張ったスタイルの時期があったのだとか。

現在の望月さんは"男雛は男らしく、女雛は女性らしく"見えるよう、着付ける衣装のラインや左右のバランス、ふくらみ加減などを意識し、各々が自然でありながらも魅力的にみえる人形制作を追求しています。

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▲ 曲線的でしなやかな女雛の肩~腕のライン。洗練された色気すら感じられます。

そんな望月さんが作るひな人形の造形美を支えるひとつに、表面からは見えない"人形の胴体"があります。

胴体は中心部分に"密に束ねた藁(わら)"を使用します。胸の箇所は斜めに削り落とし、腕の骨格となる箇所には針金を使用。そこへ木毛を巻いて腕とし、胴体を完成させます。この製法は駿河雛人形の特徴でもあり、現在も静岡を拠点とする雛人形作家全般に見られる技法となっています。

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▲ 左が男雛、右が女雛の胴体。

目に見えない部分ゆえに"少量の藁束"や"発布スチロール"など着崩れを起こしやすい粗悪な胴体も流通していますが、長年に渡り飾って楽しむひな人形の性質上、安価であっても当店ではあまりおすすめはしていません。

胴体部分において望月さんがこだわり、他の職人さんたちと大きく異なるのは、腕の骨格となる"針金の太さ"。胴体に衣装を着せ付けた後、その腕を瞬時に折り曲げる工程(=腕折り/かいなおり)を経て人形の造形美が決定するのですが、望月さんは太めの針金を使用しているため、触ったときの感触はもちろん、見た目にも着崩れをおこす気配のない"カッチリ"とした仕上がりとなるのです。

ちなみにこの"腕折り"という工程はやり直しがきかず、これひとつで人形良し悪しが決まってしまうほど重要な作業。職人の長年の経験と勘を頼りに"両肩の高さ""両腕の長さ"を揃えることはもちろん、衣装に余計なシワができないよう細心の注意をはらながらスピーディーに作業を進めていきます。

ただし…太い針金ゆえ、瞬時に入れる力が通常より余計にかかるのも事実。

『一気に力を加える作業を繰り返していると、無意識に歯を食いしばっているからもう奥歯がボロボロ。ある意味、職業病だよね』と望月さんは頬をさすりながら、笑顔で制作の苦労も教えてくれました。

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▲ 指先だけでは簡単に曲がらない太さの針金。

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▲ 直線的な男雛の肩~腕のライン。曲線的な女雛との対比が見事なまでに美しい。

美の追求―。細部への気配り。

望月龍翠イメージ
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男雛・女雛の後ろ姿です。後ろ姿を彩る白布の部分、男雛の"下襲の裾(したがさねのきょ)"と、女雛の"裳袴(もばかま)"には、それぞれ縁起の良いの"桐竹鳳凰(きりたけほうおう)"の図案がそれぞれ刺繍で装飾されています。

昨今はプリント仕上げの多い箇所でありながら、手間のかかる刺繍で仕上げるところ、そしてデザインは同一ながら人形衣装の色合いに合わせ刺繍糸の色も変化させるところに作り手の強い美へのこだわりと心配りが感じ取れます。

また同時に、この構図を必ず付属させていることで、お人形が単なるインテリアとしての飾り物ではなく、"厄除けや健康祈願の縁起物(=ひな人形)"であることをしっかりと刻み込んでいることにも好感が持てますね。

お人形の手元にもご注目下さい。手は一本一本、桐材を彫り製作した"木手"を使用しています。木手自体はさまざまな職人さんが使用していますが、望月さんの木手の先端には"爪"までほどこされています。

機械で簡単に制作できる"樹脂製の手"が多くなってきている昨今、望月さんはできるかぎり天然素材を使用した手づくりのパーツにこだわります。それは"工業品"ではなく"工芸品"を生みだすことに誇りを持ち制作しているからに他なりません。

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流行は追わずに時代を読む。

望月さんのひな人形は流行に左右されることがありません。しかし自身が築き上げた流儀に慢心し、何も変化しないわけでもありません。

人と向き合い、時代の空気感を掴みながら自らの作風に違和感なく新たな技術を取り入れていくのです。おそらくこの絶妙な判断力とそれをかたちにする技術力とのバランスが"技工派"と称される所以なのでしょう。

『芸術家じゃなくて職人なんだから、ちゃんと良いものを作らないとね』と力強く語るその姿に、ニッポンのものづくりの真髄がみられた気がしました。連綿と受け継がれてきた駿河雛人形の歴史を継承しながら、家族の元へ幸せを届けるひな人形の作り手として、次世代へと繋がる活躍を期待しています。



望月龍翠ロゴ


望月龍翠 ■経済産業大臣指定伝統工芸士

1964年静岡生まれ。本名"望月竜介"。18歳から埼玉県の老舗人形工房にてひな人形作りの基礎を学び、のちに人形師である父、幸彦のもと人形製作を始める。平成15年、経済産業大臣指定伝統工芸士の認定を受ける。今後の節句人形業界を担う、若手実力派として注目を集める。 ▶インタビューページへ