清水久遊イメージ

目を奪われる―。


まさにこの出来事を体験したのは、わたしが仕入れを任され始めた20代後半の夏。

有職雛工房ひいなの見本市に初めて訪れた際に受けたあの驚きは、今でも忘れることができません。見たことのない生地やかさねの色彩、直線的でシャープなシルエット、しっとりと手に吸い付くような絹の質感。


雛人形といえばほっこりと懐古的で、これまでのニッポンの伝統文化を包み込むような雰囲気があるものと理解していましたが、ひいなの作品から受けるイメージは、それとは全く別方向にありました。


ひとことで言うならば"現代の空気感をただよわせるこれからの雛人形"とでもいいましょうか?(店長談)



伝統とモダンの融合―。清水久遊

今や全国に多くのファンを持つ有職工房ひいなの雛人形。その制作現場の中心にいるのが清水久遊さん。昭和13年愛知県生まれ。本名"清水久美子"。18歳より先代のもとで人形作りを始め、昭和62年更に"本物"を追求するために有職雛工房ひいなを設立しました。


未だに男性が圧倒的に多い人形師の世界で、女性ならではの感性と常識にとらわれない柔軟な発想を強みとして独自の世界を築きあげてきた女流雛人形作家の第一人者です。


1938年  愛知県蒲郡市生まれ
18歳~  嫁ぎ先にて人形師の道を志す
1965年  雛人形工芸士に認定
1986年  有職工房「ひいな」を設立
1993年~ 東京高島屋において雛人形の制作実演を行う
2008年  NHK名古屋ホットイヴニング「東海の匠」取材放映
2010年  朝日新聞社主催 日本の色目・重ね色 企画展in姫路
2011年  「JAPANN EXPO日本文化フェスティバルInパリ」に出品
2012年  「TBS Doll Show2nd」に出品

清水久遊イメージ


清水久遊の特徴とこだわり。


独創的な、色彩表現力。


女雛の袖・襟元・裾にみられる"かさね(五衣)部分"にご注目を。唐衣や表着とのバランスに配慮しながら、絶妙な間隔で衣装をずらして重ね、その美しい色彩で私たちの目を楽しませてくれます。


あるときは鮮やかなグラデーションだったり、またあるときは差し色を効かせて効果的なアクセントにしていたり…各作品ごとに異なる色彩表現力は、作り手のただならぬセンスを感じさせてくれます。

清水久遊イメージ(かさね色目)


美しさ際だつ、造形美。


色彩(かさね色目)をより一層美しくみせるため、ボリュームを抑えたタイトなシルエットに仕上げているのも工房ひいなの特徴。


この造形を可能にしているのが、表からは見えない"裏打ち"作業です。裏打ちとは、生地だけで衣装仕立てをすると柔らかすぎて型くずれをおこしてしまうため、"生地の裏に和紙を張り付けていく作業"のこと。


ひいなの裏打ちは、和紙の縁のみに糊づけし生地に貼りつける"袋貼り"という方法をとります。手間がかかりますが、中に空洞ができることで適度な"遊び"がうまれ、着せつけた際ボディにしっかりと衣装を沿わせることができ、しなやかなラインを表現することを可能にしています。


また和紙の材質には繊維が太く丈夫な"楮(こうぞ)"を使用。耐久性を高めるとともに、型くずれしないキッチリとしたかさねのラインを作り出しています。


"惜しみない手間"と"材質へのこだわり"から、この造形美は誕生しているのですね。

清水久遊作 親王飾 丹後雛 清水久遊イメージ(裏打ち・袋貼り)


母のやさしさ。


女雛の背部、引腰に巻かれているのは"蒲郡八百富神社"のお守札。祭神は市杵島姫命(いちきしまひめのみこと)という女性の神様です。創業者の清水八郎が縁を感じ、ひな人形のお守りとして使いたいとお願いしたのが始まりなのだとか。


お守札を取り入れていることで、お人形が単なるインテリア要素としての飾り物ではなく"厄除けや健康祈願の縁起物(=ひな人形)"であることをしっかりと主張しています。またこのお守札一つで、職人である以前に女性、そして母であるからこその"心配り"までが感じとれるのではないでしょうか。

清水久遊イメージ


変わらないために変わり続けるということ。


久遊が新作を発表すると、早ければ翌年にも似た色使いのひな人形があらわれます。

しかし色柄だけを安易に模倣しただけでは、同じ雰囲気は決して生まれることはありません。


彼女たちは技術力も然ることながら、時勢にあわせて新しい素材を選びだす判断力、より美しいものを作りたいという探究心、そしてものづくりに対する真摯な哲学を持ち合わせているからです。


酷似品が出回ろうとも、いつも軽やかに次の領域に足を踏み入れていく工房ひいな。

追うものと追われるものの距離は短くなろうとも、その目的地に彼女たちを追い越して辿り着くことは不可能なのではないでしょうか。


これから先、ひな人形を通じて私たちにどんな驚きを与えてくれるのか、

そしてこれからの節句文化をどう切り拓いていくのか本当に目が離せない工房です。



清水久遊ロゴ

清水久遊

昭和13年愛知県生まれ。本名"清水 久美子"。18歳より先代のもと人形製作を始め、昭和62年さらに本物を追求するため、有職雛工房「ひいな」を設立。生地の裏打ちには和紙の中でも耐久性に富む樹皮繊維の"こうぞ"を使ったりと、見えない素材の一つ一つにもこだわりを持つ。女性ならではの感性と常識にとらわれない柔軟な発想を強みとして、独自の世界観を築きあげてきた女流雛人形作家の第一人者。


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