
平安道斎(へいあんどうさい)
本名「鈴木道男」。昭和14年東京生まれ。素材のひとつひとつに吟味を重ね、独自の作風を確立。実物の甲冑と同じように和紙や革を用いた製作技法で作り上げる江戸甲冑、金具を組み合わせ純金箔を施すきらびやかな京甲冑と相反する二つの製作技法を体得する技巧師。その作風は現在、第一線で活躍する甲冑師らに多大なる影響を与えている。
江戸甲冑
江戸甲冑とは、たんに”東京で製作された鎧や兜”というわけではありません。厳選された素材を使用し、実物の甲冑を手本にしながら昔と変わらぬ技法で製作され、華美な装飾を用いない落ち着いた仕上がりがその特徴です。それらはごく一部の名匠の手作業により、時間と手間をかけて作り上げることしかできません。それゆえに江戸甲冑は、節句人形の域を超えて、純粋な”工芸品”としての価値を持ち合わせています。
素材・技法に関して特に注目されるのが、小札板(こざねいた)とよばれる部分です。一般的な観賞用甲冑(節句品を含む)の小札は、一枚のアルミ板で作られているのに対し、江戸甲冑で使用される小札板は、実物同様に一枚一枚、革や和紙の小札を手で並べていき、それらを張り合わせ、その上に幾重にも厚く漆(うるし)塗りが施された小札板を使用します。大きさによっては、小札板をつくる工程だけで数カ月ということも決して珍しいことではありません。